浜松動物園 その4 [旅]
「ねむい」
だっこするのを拒んだりすると長男みずきが口にして甘える言葉だ。何とかしてだっこを継続させようと考えているのだろう。坂道でさらにみずきの重みが両足、そして腰にのしかかってくる。「もう、歩いて~」と訴えながら、しかたなくだっこを続ける。そんな時、ある考えが頭をよぎった。
自分が親と来た最後の動物園はいつだろう・・・。
おそらくは24年前、中学1年の時だ。8歳離れた弟と父親が日本平動物園に行くことになり着いて行ったのだと思う。それ以前にも何度か訪れているはずだが、記憶が曖昧であり思い出としては残っていない。記念写真といった物的証拠も無い。なんだか急に寂しくなった。
みずきやつかさにとって父親や母親と訪れる動物園はどのように記憶されるのだろうか。恐らくはこれから訪れる様々な事柄に圧されて何も残らないのではないのか。だっこされて坂道を登り、動物を見ている今日は彼らにとってどれだけの意味があるのだろう。
そして自分の両親はどんな思いで私を様々な場所へ連れ出したのだろうか・・・。不思議な感覚にとらわれた。今、この時、この瞬間は何なのだろうか、と。
ただ、こうして家族で時間をともにすることはとっても幸せな事に思えた。幼い自分を連れ出してくれた両親にとっても幸せな時間であって欲しいし、みずきやつかさにとってもそう願う。私はみずきのまだ小さな体を抱え上げ肩車する。「どうだ?」と聞いてみた。彼は答えなかった。
動物園も終盤。トラを遠めに見ながらみずきが急に走り出した。
「オレ、先に行ってるから」
そういい残して急に走り出した。つかさと奥様、そして私を残してどんどん離れていく。「ちょっと待てよ」気がついた時にはみずきの姿は私たちの視界から消えていた。
最終話へ
タグ:浜松動物園
ドラマの脚本か!!!!
by tengonsan (2013-05-17 19:10)