プレミアムモルツ物語 最終話 [家族]

白い携帯は沈黙を続けている。

鳴るとすれば、犯人からの身代金要求ぐらいだろうか。そんな有り得ない考えまで私の頭に浮かぶほど切羽詰っていた。とにかく藁をもつかむ思いだった。


意を決して奥様の携帯を手にとった。深夜であろうと迷惑など気にしていられない。少しでも手掛かりがあればいい!!私はアドレス貼を開き、なかからママ友Bの電話番号を見つけ出した。私はためらいなく通話ボタンを押した。


無機質なコール音が続く。やはり出ないなと思っていたその時。


もしもし

つながった!


夜分遅くに申し訳ございません。うちのがお邪魔してないでしょうか?」

お邪魔してなければ「何言ってんだ」的な質問だ。だが、体裁など気にしてはいられなかったのだ。直球のみで質問した。



「います」



驚いた。それと同時に全身の力が抜ける。その場に座り込んでしまった。

今、家族三人で寝ているそうだ。明日、送り返すとのことだった。一通りのお礼をして電話を切る。「通話履歴がないのにどうやってママ友Bの家まで行ったのか。」「オムツやお金、その他道具は一切持たずに出ていって大丈夫だったのか。」そんな疑問はどうでも良かった。

両親に警察を呼び戻すよう動いてもらう。奥様の両親にもすぐ電話を入れ状況を報告した。

私が忘れていた食事を取り終えるまで両親は家に居てくれた。言葉にできないほど感謝と申し訳なさでいっぱいになっていた。



様々な人を巻き込んだ失踪劇は「ママ友の家に逃げていた」という単純な結末で終焉を迎えた。もう、奥様に対する怒りとかそんなものは何もなかった。


ただ家族が無事でいてくれた。それだけで十分だった。



今宵の[ぴかぴか(新しい)]プレミアムモルツ[ぴかぴか(新しい)]はフルーティーでありながら実にほろ苦かった。




END



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コメント 1

tengonsan

大団円、あざすっ!!

ただ奥様とはその後どうなったのか気になる。。。

後日談、エピローグ希望!!!!
by tengonsan (2011-10-04 21:03) 

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