サヨナラバス その2 [不思議話]

夜はすっかりと明けていた。


金色に輝く田園、その脇を静かにバスが行く。車内は完全に明るくなっていた。私はポケットにしまっていたスマートフォンの存在を思い出し手に取る。画面に表示された受話器のマークをタップし、電話帳を呼び出した。そして検索欄に『えんま』と入力する。すぐに閻魔大王がヒットした。通話ボタンを押した私は息をのんで携帯に耳をあてる。呼び出し音を聞きながら、いつもはどうしていたのかと普段の仕事を回想した。


普段私は、夜が明ける前に仕事を片付けていた。亡くなった人たちを残し、とある停留所で必ず降車していた。私たちが生きる現世と死後の世界を分かつ存在であろう停留所、今夜はその存在にまったく気が付かなかったのである。このままでは死者を送る仕事は遂行できるものの、自分も死者として死後の世界に連れて行かれてしまうのだ。それだけは避けなければならない。私はまだ死にたくなんてない!!

電話がつながった。いつものアイツが電話口にでる。気に食わない上から目線野郎だが、私のいわゆる親会社の人間だ。ぐっとこらえ愛想のよい返答をする。


「お世話になっております。パインサーですが、お忙しいところ申し訳ございません。」焦っているためどうしても早口になってしまう。


「ああ、朝から勘弁して下さいよ。今度はどうしました?」いけすかないがここは我慢だ。なんとかしてもらわなくては・・・。

「非常に申し訳にくいんですが、サヨナラバスで停留所を降りそこないまして。ええ、現世とあの世の境目を超えてしまったようなんです。はい、そうです。で、困ってしまいまして閻魔大王様にお願いするしか手がなくてですね、はい電話を取らせていただきました。大王様いらっしゃいますか?」


とにかく内容は伝えた。早く対応してもらわなければ目も当てられない結果になってしまうことだろう。額から大粒の汗がしたたり落ちていた。手汗も半端ない、緊張はピークだった。


「パインサーさん、今年は災難続きでしたね~。それも年末最後の締めくくりであんな大きな事故に巻き込まれちゃうんだもんね。ホント悲惨だね~。」本当他人事だ。もう少し心配したらどうなんだ。でも事故を起こしたって・・・?


「ええ、まったくです。ただ早くしないと取り返しがつかないのではと心配で。ええ、そうです。あと、一つ気になったのですが、事故って何のことですか?」正直身に覚えが無い。


「あれだけの事故ではどうしようもないですよね。残念です。」どういうことだ。私が事故に巻き込まれたと言うのか?コイツは何を言っているんだ?


にこうやって仕事しているじゃないか!!


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コメント 1

tengonsan

この話の更新が、
私にとっての、最高の
クリスマスプレゼントとなりました。

あざす。
続き、期待してます。
by tengonsan (2013-12-25 09:32) 

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